この記事の目次
1. 簿記1級の足切りは10点未満|「合計」と「各科目」を両方満たす
日商の合格基準は、全体70%以上、かつ1科目ごと40%以上です。商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算は各25点、合計100点。次の例では、合計点が高い順に合格するわけではないことが分かります。
| 例 | 商業簿記 | 会計学 | 工業簿記 | 原価計算 | 合計 | 基準上の判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 23 | 21 | 20 | 9 | 73 | 原価計算が10点未満 |
| B | 22 | 20 | 18 | 10 | 70 | 両方の基準を満たす |
| C | 18 | 17 | 17 | 17 | 69 | 各科目は満たすが合計不足 |
| D | 20 | 18 | 19 | 18 | 75 | 両方の基準を満たす |
ちょうど10点は40%なので科目ごとの基準を満たします。ただし、全科目10点なら合計40点です。足切り回避と合格点到達は、別々に管理する必要があります。なお、ここでいう「足切り」は各科目の最低得点基準を指す一般的な呼び方です。
商業簿記と会計学を合算して40%取ればよい、という意味でもありません。前半2科目の合計が高くても、どちらか一方が10点未満なら基準を満たしません。成績を見直すときは、前半・後半の2枠だけでなく、必ず4科目に分けて記録してください。
2. 10点を本番の目標にしない|最低基準に余裕を持たせる
例えば、練習時の仮目標を商業簿記20・会計学18・工業簿記19・原価計算18、合計75点とします。これは編集部の計画例であり、公式の推奨点や合格保証ではありません。得意不得意に合わせて組み替えてください。
| 今回の自己採点例 | 次回の仮目標 | 直す課題 |
|---|---|---|
| 商業簿記21 | 20 | 既習の維持と読み落とし防止 |
| 会計学9 | 16 | 基本用語の再現と計算の着手 |
| 工業簿記20 | 20 | 資料の単位・振替の見直し |
| 原価計算19 | 19 | 判断根拠を短く書く練習 |
| 合計69 | 75 | 会計学を上げ、他科目を放置しない |
この例では、商業簿記の満点を目指す前に会計学の9点を見直します。ただし「会計学だけを勉強して他は止める」計画にはしません。維持用の短い演習を残し、改善した科目とは別の科目が下がる事態を防ぎます。
目標点を一度決めても、初見問題で再現できないなら調整が必要です。同じ問題を覚えて取った得点と、初めて解く問題で取った得点を混ぜずに記録すると、目標と現在地の差を判断しやすくなります。
3. 足切りの原因を4つに分ける|講義の見直しだけで終えない
| 分類 | 答案に出る症状 | 次に行う練習 |
|---|---|---|
| 知識不足 | 用語や仕訳そのものが出てこない | 該当範囲を戻り、解説を閉じて再現 |
| 資料整理 | 意味は分かるが数字を拾えない | 日付・単位・対象を下書きに集約 |
| 連鎖ミス | 最初の数字を誤り、後続も崩れる | 誤りの起点と影響範囲を分ける |
| 時間不足 | 時間外なら解けるが、未着手が残る | 2科目の着手時刻と見切りを記録 |
まず間違えた問題を、解答を見ずに時間制限なしで解き直します。それでも動けなければ、知識・資料整理の復習が先です。時間外では解けるなら、問題の選択や読み直し回数、計算の重複を調べます。「時間があればできた」を毎回の感想で終わらせず、どこで何分止まったかを残しましょう。
科目ごとに見る観点も変える
- 商業簿記:個別の会計処理が分からないのか、総合問題の集計で崩れたのかを分ける。
- 会計学:理論の読み間違い、用語の再現、計算問題への未着手を別々に記録する。
- 工業簿記:数量・金額・時間の単位、仕掛品の換算量、差異の符号を点検する。
- 原価計算:公式を知っているだけでなく、意思決定に関係する収益・費用を選べるか確かめる。
「会計学は理論だけ」「原価計算は公式だけ」と決めつけると、必要な対策を取りこぼします。出題範囲全体を踏まえ、今回の答案で失点した原因に絞って戻る場所を選びます。
4. 90分×2の配分例|2科目目を未着手にしない
試験は商業簿記・会計学で90分、休憩を挟み工業簿記・原価計算で90分です。一方の時間をもう一方へ持ち越すことはできません。各90分の中で、2科目の問題に一度は目を通す仕組みを作ります。
| 段階 | 前半の例 | 後半の例 | 目的 |
|---|---|---|---|
| 全体確認 | 5分 | 5分 | 両科目の設問と資料量を見る |
| 1科目目 | 商業簿記40分 | 工業簿記40分 | 着手できる設問から進める |
| 2科目目 | 会計学35分 | 原価計算35分 | 未着手の科目を残さない |
| 戻り・見直し | 10分 | 10分 | 解ける残問と転記を確認 |
| 合計 | 90分 | 90分 | 自分の演習結果で調整 |
これは固定の正解ではありません。会計学の短い設問から着手する方法もあります。重要なのは順番より、片方だけに使い切らないことです。初見で処理の入口が見えない場合は印を付けて次へ進み、戻る時刻を確保してください。
また、本番中に「今10点取れたはず」と厳密に判断するのは難しいものです。配点や採点の細部を推測して、そこで一科目を打ち切る戦略は避けます。設問ごとに解答可能性と残り時間を見て判断しましょう。途中式を書けば必ず加点される、とも考えないようにします。
5. 原価計算の短い自作例題|知識と判断を分けて確認する
余剰生産能力があり、通常販売を圧迫しないとします。特別注文500個の受注価格は1個1,400円、1個当たり変動製造原価は900円。この注文だけの追加包装費が1個100円、受注する場合だけ必要な追加固定費が80,000円です。既存の固定費は変わりません。金額以外の条件に問題がない場合、追加利益はいくらですか。
追加利益の解答と考え方を見る
追加売上700,000円−変動製造原価450,000円−追加包装費50,000円−追加固定費80,000円=120,000円です。利益の面では受注により120,000円増えます。既存固定費は受注の有無で変わらないため、この差額計算には入れません。一方、追加固定費80,000円は受注の有無で変わるため含めます。
1個当たり貢献額は1,400−900−100=400円。追加固定費80,000円を回収する数量は200個で、500個なら(500−200)×400=120,000円と検算できます。通常販売を失う場合などは、機会原価等を追加して判断します。
公式が出てこなかった人は基礎へ、既存固定費と追加固定費を混ぜた人は「受注しない場合との差」を書く練習へ戻ります。この1問に正解しても、1級全体の足切り回避を判定できるわけではありません。短い問題を診断に使い、そのあと科目全体の演習で確認する位置付けです。
6. 残り日数別の立て直し|新しい教材より、再現できる範囲を増やす
| 残り期間の例 | 重点 | 確認する結果 |
|---|---|---|
| 3〜4週間 | 一度本番形式で測り、最低科目の原因を特定 | 4科目の得点と未着手の量 |
| 1〜2週間 | 同じ原因の誤答を短く反復し、初見問題へ戻る | 解説なしで再現できるか |
| 直前数日 | 既習の用語・処理・下書きを確認 | 他科目の基本を忘れていないか |
| 前日〜当日 | 持ち物・受験票・時間配分を確認 | 長時間の新規学習で崩さない |
例えば平日60分を5日と休日180分を2日使えるなら、週660分=11時間です。そのうち最低科目へ追加60分を回す場合も、得意科目の維持演習をゼロにしないようにします。学習時間の総量より、何を自力で再現できたかを記録してください。
翌日に同じ問題が解けても、数日空くと解けなくなるなら、復習間隔を詰める課題が残っています。反対に単問は安定しているのに総合問題で崩れるなら、単問を増やすだけでなく、資料を横断して処理する練習に時間を配ります。
7. 合計点だけを見ないための科目別記録表
| 科目 | 今回/25 | 未着手 | 最初の誤り | 次回の確認 |
|---|---|---|---|---|
| 商業簿記 | __ | __問 | __ | __ |
| 会計学 | __ | __問 | __ | __ |
| 工業簿記 | __ | __問 | __ | __ |
| 原価計算 | __ | __問 | __ | __ |
追加で「採点に使った解答の出所」「初見か再演習か」「時間内の得点か」を欄外に残します。学校等が作成した模範解答による自己採点は、正式な結果と一致するとは限りません。点数だけでなく、知識・資料整理・連鎖・時間のどれが改善したかを追いましょう。
公式の過去問題と出題の意図・講評は、難しい設問の答え合わせだけでなく、どの理解が問われたかを見る材料にもなります。第173回の講評でも、パターンだけでなく処理の意味を理解することが示されています。自分の解法が別の条件でも使えるかを確かめてください。
8. 足切り対策でよくある疑問
全科目10点以上なら合格ですか?
それだけでは足りません。全体で70点以上も必要です。全科目10点以上という条件と合計点の条件を、両方満たします。
難しい回なら足切りの基準も下がりますか?
公式に示された基準は全体70%以上・各科目40%以上です。配点調整の噂を根拠に、10点未満でも救済される前提の計画は立てません。
苦手科目を一つ捨てて、他で稼ぐのはありですか?
科目ごとの基準があるため、科目を丸ごと捨てる計画は成立しません。一つの難問を後回しにする判断と、一科目全体を放棄する判断は分けてください。
制度や学習負荷の全体像は簿記1級の難易度と学習計画で整理できます。独学を続けるか迷うときは、教材の数より、どの誤りを自分で直せずにいるかを書き出してください。質問や添削を検討するなら、その具体的な課題を伝えられる状態にしてから比較すると、必要な支援を選びやすくなります。


