簿記1級のキャッシュ・フロー計算書|間接法の「増減」で迷わない解き方

簿記1級のキャッシュ・フロー計算書、間接法の増減を攻略する学習ガイド

「売掛金が増えたらマイナス、買掛金が増えたらプラス。覚えたはずなのに、問題を解くと逆になる……」

キャッシュ・フロー計算書で手が止まるときは、符号だけを覚え直すより、すでに利益に入っている金額と、実際に動いた現金を分けるところへ戻りましょう。間接法は、このズレを一つずつ調整する手続きです。

この記事では、日商簿記1級の学習者に向けて、営業活動によるキャッシュ・フローを間接法で求める基本を解説します。投資の採算を判定する現在価値計算とは区別し、決算書から現金の増減を組み立てる問題に絞って扱います。

最初に押さえる3点

  • 出発点は、税金等調整前当期純利益。
  • 営業に関する資産の増加は原則マイナス、負債の増加は原則プラス。
  • 固定資産の売却代金と売却損益は、別の数字として処理する。

1. 間接法は「利益を現金ベースに直す」方法

商品を掛けで売れば、まだ入金されていなくても売上と利益は計上されます。反対に、減価償却費は利益を減らしますが、その費用を計上するたびに現金を支払うわけではありません。損益計算書の利益を、そのまま現金の増加額として使えない理由がここにあります。

間接法では、税金等調整前当期純利益を出発点に、こうしたズレを調整して営業活動によるキャッシュ・フローを求めます。根拠となる表示方法は、ASBJ掲載の「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」で確認できます。

下書きでは、調整項目を次の3つに分けると、長い資料でも読み落としを見つけやすくなります。

  1. 現金が動かない費用・収益を戻す。
  2. 営業に関係する債権・在庫・債務の増減を調整する。
  3. 投資・財務活動に関係する損益を営業区分から外す。

日商簿記1級の第171回「出題の意図・講評」でも、直接法と間接法の両方の習得が求められています。この記事で間接法を整理した後は、同じ取引を収入・支出から説明できるかも確かめてください。

2. 売上債権・棚卸資産・仕入債務の符号を見分ける

まずは、貸倒れ・評価損・為替換算などの特殊事情がない基本形で考えます。増減額は期末残高-期首残高で求め、その後に現金ベースの調整符号を付けます。

営業に関する項目 増加した場合 減少した場合
売上債権(売掛金など) マイナス プラス
棚卸資産(商品など) マイナス プラス
仕入債務(買掛金など) プラス マイナス

売掛金が増えた:売上のうち、まだ入金されていない分を引く

売上高500万円、売掛金の期首残高100万円、期末残高140万円とします。売掛金は40万円増えています。すべてが通常の掛売上・回収による増減なら、現金で回収した売上は500-40=460万円です。

損益計算には500万円の売上が入っていますが、入金は460万円。この40万円のズレを引く、と言葉にできれば、符号を忘れても組み立て直せます。

商品が増えた:費用になっていない仕入れにも目を向ける

商品の期首残高80万円、期末残高100万円、当期仕入高300万円なら、売上原価は80+300-100=280万円です。利益からは280万円しか引かれていませんが、仕入れた商品は300万円分あります。仕入債務の増減がなければ、この20万円を追加で減算して現金支出に近づけます。

買掛金が増えた:仕入れたが、まだ払っていない分を戻す

同じ例で、買掛金が70万円から90万円へ増えていたらどうでしょう。仕入高300万円のうち20万円は未払いなので、仕入先への支払額は300-20=280万円です。買掛金の増加20万円は、営業キャッシュ・フローの計算でプラスになります。

この3つは、まず単独で説明し、次に組み合わせて解く順序がおすすめです。最初から早見表だけで総合問題を解くと、どの調整で迷ったのかが見えなくなります。

3. 減価償却費と固定資産売却損益は、調整理由が違う

減価償却費を足しても、現金が増えるわけではない

減価償却費120万円が利益から引かれているなら、現金支出を伴わない費用として120万円を加算します。これは利益の計算で減った分を戻す操作であって、償却によって現金が120万円入ってくるという意味ではありません。

固定資産を買ったときの支出は、原則として投資活動の区分で扱います。購入時の支出と、その後の費用配分を同じ年度の現金の動きとして混ぜないことが大切です。

売却益を引き、売却代金は投資活動に載せる

帳簿価額70万円の設備を100万円で売却すると、売却益は30万円です。この30万円は税引前利益に含まれますが、売却に関する現金収入100万円は投資活動で表示します。そのため間接法の営業区分では、利益に入った30万円を減算します。売却損であれば、利益を減らしている分を加算します。

営業区分の調整額は30万円、投資区分の収入は100万円。売却益と売却代金を別々に下書きしておくと、ここでの取り違えを防げます。

4. 学習用例題:営業キャッシュ・フローはいくら?

次は編集部作成の例題です。金額の単位はすべて万円。通常の営業債権・棚卸資産・仕入債務だけを扱い、評価損、貸倒れ、連結範囲の変動、消費税の調整はないものとします。利息の受払いを営業活動に表示する方法を採用します。

与えられた資料 金額・増減
税金等調整前当期純利益 1,000
減価償却費 120
固定資産売却益 30
受取利息/支払利息(損益計上額) 10/20
売上債権/棚卸資産/仕入債務 80増加/40減少/50減少
利息の受取額/支払額 8/18
法人税等の支払額 250

まず、小計までを計算します。

1,000+120-30-10+20-80+40-50
=小計1,010万円

受取利息10万円を引き、支払利息20万円を足すのは、いったん損益計上額を外し、小計の下で実際の受取額・支払額に置き換えるためです。

1,010+利息受取8-利息支払18-法人税等支払250
=営業活動によるキャッシュ・フロー750万円

解答後は合計だけでなく、各行について「なぜ足すのか・引くのか」を説明してください。金額が違う類題にも対応する練習になります。なお、利息・配当金には別の区分方法もあるので、実際の問題では指定を先に確認します。詳しい取扱いはASBJ「作成に関する実務指針」第11項・第12項が参考になります。

5. 答案が合わないときに確認する4か所

  • 期首と期末を逆にしていないか。増減額の計算と、キャッシュ・フローへの加減算を別の欄に書きます。
  • 当期純利益から始めていないか。問題が求める税金等調整前の利益を確認します。
  • 売却代金を営業区分に入れていないか。損益と収入を別々に扱います。
  • 残高差に特殊な要因が混じっていないか。貸倒れ、評価損、為替差額などがあれば、単純な期末-期首だけでは足りないことがあります。

「資産は増えたら全部マイナス」と広げすぎるのも危険です。上の早見表は営業に関する項目の基本形です。固定資産、借入金、現金そのものまで同じ表に当てはめず、まずどの活動の取引かを判定してください。

6. 次の演習では「符号」ではなく「理由」を1行残す

復習ノートに長い解説を書き写す必要はありません。「売掛金+80→未回収が増えた→-80」のように、間違えた行だけを1行で残しましょう。翌日は数字を変えて、同じ理由で符号を決められるか確認します。

理論と計算のつなげ方を整理したい方は、簿記1級の商業簿記・会計学を暗記に頼らず攻略する方法も参考にしてください。過去問を解く順序については、過去問・予想問題集の使い分けと直前期の戦略で扱っています。

キャッシュ・フロー計算書は、利益の数字に「本当に入金した?」「もう支払った?」と問い直す練習です。まずは通常の債権・在庫・債務と非資金費用を確実に処理し、その後に例外条件を加えていきましょう。

会計上の取扱いは2026年10月29日に上記一次資料を確認。例題・学習手順は編集部作成で、実際の試験問題や合格体験談の転載ではありません。

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