簿記3級では「株式を発行したら、全額を資本金にする」と習いました。しかし、実務や簿記2級の世界では、会社法という法律によって「全額を資本金にしなくてもいい(一部を準備金にする)」というルールや、「配当するときは、少し貯金しなさい(準備金積立)」というルールが存在します。
今回は、第1問(仕訳)で頻出の「増資(株式発行)」と、計算ミスが起きやすい「配当時の準備金積立」を徹底解説します。
この記事でマスターすること
- ✔
株式発行時、払込額の2分の1まで「資本準備金」にできる - ✔
配当時には、配当額の10分の1を準備金として積み立てる - ✔
積立額の上限は資本金の4分の1(重要計算ルール!)
1. 株式の発行(増資)
会社を設立した後、事業拡大のために追加で株式を発行して資金を集めることを「増資」といいます。
原則と例外(1/2規定)
株主から払い込まれたお金は、原則として全額「資本金」にします。しかし、会社法の規定により、以下の処理も認められています。
原則
全額 ➡ 資本金
(3級と同じ処理)
容認(2級のポイント)
払込金額の2分の1を超えない額までは、資本金にせず「資本準備金」として計上できる。
※なぜ資本金にしないの? ⇒ 日本では、資本金が1億円を超えると税金の優遇が減るなどの事情があるため、実務ではあえて資本金を増やさない(資本準備金にする)ことがよくあります。
仕訳例:増資の処理
問:株式100株を1株あたり100円で発行し、全額の払込みを受け、当座預金とした。なお、払込金の2分の1を資本金とし、残額は資本準備金とする。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 当座預金 | 10,000 | 資本金 資本準備金 |
5,000 5,000 |
総額10,000円のうち、半分を資本金、残りを資本準備金に振り分けます。
2. 剰余金の配当と準備金の積立
株主総会で「配当」が決議された時の処理です。ここが2級の純資産会計で最も計算ミスが起きやすい場所です。
会社法の「準備金積立ルール」
会社法では、会社のお金が配当によって流出しすぎて弱体化しないよう、「配当するなら、その10分の1くらいは会社に貯金(準備金)として残しておきなさい」と定めています。
以下の①と②を比べて、小さい方の金額を積み立てます。① 配当財源の10分の1
(繰越利益剰余金から配当するなら、その1/10)② 資本金の4分の1に達するまでの不足額
(資本金 × 1/4)-(現在の資本準備金 + 利益準備金)
ほとんどの問題では「① 配当額の1/10」が正解になりますが、まれに②の上限に引っかかる問題が出ます。必ず両方チェックする癖をつけましょう。
積立先は「兄弟」を合わせる!
配当の元ネタ(財源)がどちらかによって、積み立てる準備金の種類が変わります。
| 配当の財源(元ネタ) | 積み立てる準備金 |
|---|---|
| 繰越利益剰余金 (稼いだ利益から配当) |
利益準備金 |
| その他資本剰余金 (資本取引の余りから配当) |
資本準備金 |
※「その他資本剰余金」からの配当は3級では出ませんが、2級では頻出です! 「資本」からは「資本」を積み立てると覚えましょう。
3. 実践!計算と仕訳
例題:
株主総会において、以下の通り配当と処分を決議した。
・繰越利益剰余金を財源とする配当:1,000円
・会社法規定の準備金を積み立てる。
(参考データ)
資本金:10,000円
資本準備金:1,000円、利益準備金:1,000円
Step 1:配当の1/10を計算(原則)
1,000円 × 1/10 = 100円 … (A)Step 2:上限チェック(資本金の1/4)
資本金(10,000) × 1/4 = 2,500円(これがゴール)
現在の準備金合計 = 1,000(資準) + 1,000(利準) = 2,000円
あと積める額 = 2,500 - 2,000 = 500円 … (B)Step 3:比較
(A)100円 < (B)500円 なので、小さい方の100円を積み立てる。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 繰越利益剰余金 | 1,100 | 未払配当金 利益準備金 |
1,000 100 |
※借方の繰越利益剰余金は、配当(1,000)+積立(100)の合計額減らします。
🚀 確認ミニクイズ
次の取引の勘定科目と金額を答えてください。
Q1. 新株を発行し、払込金1,000万円が当座預金に入金された。資本金組入額は会社法規定の最低額とする。資本金の金額は?
Q2. 「その他資本剰余金」を財源として配当100円を行う。このとき積み立てる準備金の科目は?(※上限には達していないとする)
答えを見る(クリックして展開)
A1. 500万円
会社法では「1/2を超えない額を資本準備金にできる」=「最低でも1/2は資本金にする」ということ。1,000万の半分は500万円です。
A2. 資本準備金(金額:10円)
資本剰余金からの配当なので、兄弟分の「資本準備金」を積み立てます。金額は100円の1/10です。
まとめ
- 増資時: 原則は全額資本金だが、1/2までは資本準備金に逃がせる。
- 配当時: 配当額の1/10を準備金として強制積立。
- 積立の上限: 資本準備金+利益準備金が、資本金の1/4になるまで。
次回は、ビジネスで必須の税金知識、「法人税等」と「消費税」についてです。税抜方式と税込方式の違いなど、実務直結の内容を解説します!

