材料(モノ)の次は、労務費(ヒト)の計算です。いわゆる人件費のことですが、簿記2級では少し複雑な計算をします。
なぜなら、「給料の支払日(毎月25日など)」と「原価計算の期間(1日~末日)」が一致しないことが多いからです。このズレをどう調整するかが今回のメインテーマです。また、計算をスピードアップさせるための「予定賃率」も登場します!
この記事でマスターすること
- ✔
給料の「支払額」と「消費額」は違う! 未払賃金による調整 - ✔
直接工の作業時間は「直接作業(仕掛品)」と「間接作業(製造間接費)」に分ける - ✔
予定賃率を使った計算(@予定単価 × 実際時間)
1. 支払額と消費額のズレ(未払賃金)
工場では毎月1日から末日までの原価を計算したいのに、給料日は「20日締め・25日払い」だったりします。この場合、単に支払った金額をそのまま原価にするわけにはいきません。
【図解】期間のズレと調整イメージ
4月の原価(消費額)を計算するには、
支払った額から「前月の未払分(3/21~3/31)」を引き、
まだ払っていない「当月の未払分(4/21~4/30)」を足す必要があります。
計算式(「消費額」を求める公式)
※「賃金・給料」勘定(費用)のボックス図を書くと分かりやすいです(借方に支払と前月未払、貸方に当月未払を書く、という形ではありません。逆です。下記参照)。
勘定連絡図での流れ
| 借方(増える) | 貸方(減る=消費) |
|---|---|
| ① 当月支払額 (現金で払った分)② 当月未払高 (当月の労働だが来月払う分) |
③ 前月未払高 (支払額に含まれる前月分を除く)④ 当月消費額(差額) ➡ 仕掛品・製造間接費へ |
※試験ではこの「④ 消費額」を計算させられます。
2. 誰が何をしたか?(消費額の分類)
計算した「消費額」は、どの勘定科目に振り替えるのでしょうか? それは「誰が」「何をしたか」で決まります。
| 職種 | 作業内容 | 分類 | 行き先(借方) |
|---|---|---|---|
| 直接工 (現場の職人) |
直接作業時間 切削、組立など製品に直結 |
直接労務費 | 仕掛品 |
| 間接作業時間 掃除、機械整備、待機など |
間接労務費 | 製造間接費 | |
| 間接工 (警備・事務等) |
すべての作業 | 間接労務費 | 製造間接費 |
注意点: 直接工であっても、掃除や待ち時間などの「間接作業」をしている間は、製品を直接作っているわけではないので「製造間接費」になります。ここがひっかけポイントです!
3. 予定賃率(計算を早くするテクニック)
実際の給料額が確定するのを待っていると、原価計算が遅れてしまいます。そこで、あらかじめ決めておいた「予定賃率(時給のようなもの)」を使って、サッと計算する方法がよく使われます。
予定消費額の計算式
予定賃率 × 実際の作業時間 = 予定消費額
差異の処理(賃率差異)
「予定」で計算すると、後で判明した「実際」の金額と必ずズレが生じます。このズレを「賃率差異(ちんりつさい)」といいます。
- 有利差異(貸方差異):
予定より実際のコストが安く済んだ場合。(得した!) - 不利差異(借方差異):
予定より実際のコストが高くついた場合。(損した…)
仕訳例:予定賃率での計上
問:直接工の直接作業時間は100時間、間接作業時間は20時間であった。予定賃率1,000円/時を用いて消費額を計上する。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕掛品 製造間接費 |
100,000 20,000 |
賃金(または労務費) | 120,000 |
※ 仕掛品:1,000円×100時間
※ 間接費:1,000円×20時間
🚀 確認ミニクイズ
次の問いに答えてください。
Q1. 賃金の当月支払額が200、前月未払高が20、当月未払高が30の場合、当月の消費額はいくら?
Q2. 直接工が行った「機械の掃除」や「待機時間」のコストは、どの勘定科目に振り替えられる?
Q3. 予定消費額(100)よりも実際消費額(110)の方が大きかった。この差額(10)は有利差異?不利差異?
答えを見る(クリックして展開)
A1. 210
支払(200) - 前月未払(20) + 当月未払(30) = 210。
「先月分を引いて、今月分を足す」と覚えましょう。
A2. 製造間接費
直接工でも、製品に直接関わらない時間は間接費になります。
A3. 不利差異(借方差異)
予定よりコストがかかってしまったので、会社にとっては「損(不利)」です。
まとめ
- 消費額の計算:支払額 - 前月未払 + 当月未払。
- 直接工の作業:「直接作業」だけが仕掛品。それ以外は間接費。
- 予定賃率:@予定単価 × 実際時間で計算し、差額は賃率差異へ。
次回は、3要素の最後「経費」です。水道光熱費や減価償却費など、「材料と人件費以外」のすべてが登場します。ここでも「支払と消費のズレ」がポイントになります!

