「簿記2級・3級はネット試験でいつでも受けられるのに、なぜ1級はないの?」
「年に2回しかない一発勝負はプレッシャーがきつい…」
「将来的に1級もCBT化される予定はある?」
日商簿記2級・3級で「ネット試験(CBT方式)」が定着し、その利便性の高さから「1級も早くネット対応してほしい」という声が多く上がっています。
しかし、結論から言えば、現時点で日商簿記1級のネット試験導入に関する公式発表はなく、実現へのハードルは極めて高いのが実情です。
この記事では、なぜ1級のCBT化が難しいのか、その「構造的な理由」と、今後の試験形式の展望についてプロの視点で解説します。
【現状の結論】1級は当面「ペーパー試験(年2回)」が続く
まず、日本商工会議所(主催者)の動向を確認しましょう。
現在の試験実施状況
- 簿記3級・2級:
「ペーパー試験(年3回)」+「ネット試験(随時)」のハイブリッド実施。 - 簿記1級:
「ペーパー試験(年2回:6月・11月)」のみ。
※ネット試験導入のアナウンスは一切なし。
なぜ2級までは対応できたのに、1級は対応しないのでしょうか? それには、単なるシステムの問題ではない「試験の性質」が大きく関わっています。
なぜ1級のネット試験化は難しい?「3つの高い壁」
1級をCBT化するには、以下の3つの問題をクリアする必要があります。
壁①:計算量と記述量が「画面」の限界を超えている
簿記1級は、A4用紙数枚にわたる膨大な資料を読み込み、複雑な計算過程を経て解答を導き出します。
2級レベルなら画面上の電卓やメモ機能で対応できても、1級の「意思決定会計」や「連結会計」のような複雑な思考プロセスを要する問題を、パソコン画面だけで解くのは物理的に困難です。
壁②:合格基準が「相対評価(傾斜配点)」である
ここが最大の違いです。
2級・3級のネット試験は「70点以上取れば合格」という絶対評価です。問題プールからランダムに出題され、その場で合否が出ます。
一方、1級は「上位10%前後を合格させる」という相対評価(競争試験)の側面が強い試験です。
受験者全員が同じ問題を解き、全体の出来栄えを見て配点を調整(傾斜配点)する必要があるため、「いつでも誰でも受けられる」形式とは根本的に相性が悪いのです。
壁③:国家資格(税理士)への影響
日商簿記1級合格者は、税理士試験の受験資格が得られます。
国家資格へのパスポートとなる重要な試験であるため、試験の公平性やセキュリティには、2級・3級以上に厳格な管理が求められます。「ネットカフェのような環境で受験」というわけにはいきません。
今後の展望:税理士試験のデジタル化が試金石?
「じゃあ、未来永劫ペーパー試験のまま?」というと、変化の兆しはあります。
国税庁は「税理士試験のデジタル化(CBT化)」に向けた検討を進めています。
【予想される未来のシナリオ】
もし税理士試験や公認会計士試験で「本格的なCBT導入」が成功すれば、それに追随する形で日商簿記1級もCBT化される可能性はあります。
ただし、その場合も「いつでも受けられるオンデマンド方式」ではなく、「指定された日時に、指定されたテストセンターで、PCを使って一斉に受験する」という形式になる可能性が高いでしょう。
受験生へのアドバイス:待つのは損!今すぐ「書く」練習を
1級のネット試験化を期待して「待つ」のは、キャリア戦略として悪手です。
- 導入されるとしても、数年〜数十年先の話になる可能性が高い。
- 現行のペーパー試験で合格すれば、その価値は変わらない(むしろ希少性は高い)。
- 「手書きの計算力」は、実務や他の上位資格(会計士・税理士)でも必須のスキルである。
まとめ
日商簿記1級のネット試験(CBT)導入は、現時点では「予定なし」であり、構造的なハードルが高いため当面はペーパー試験が続くと予想されます。
「年2回しかチャンスがない」というプレッシャーは確かにきついですが、裏を返せば「その日に向けてピークを持っていく調整力」も試されている試験です。
不確定な未来を待つのではなく、現在のルールの中で確実に勝利を掴み取りましょう。

