「あと1科目…その1科目が、永遠に受からない気がする」
「同世代が昇進して楽しそうにしている中、自分だけ土日も自習室…」
「撤退したいけど、今までの数年間が無駄になるのが怖い」
これは、かつての私が毎晩布団の中で抱えていた悩みです。
税理士試験は「5科目合格」というゴールテープを切った人だけが称賛されがちですが、実際にはその裏で、多くの人が悩み、苦しみ、そして「撤退(ドロップアウト)」という決断をしています。
この記事では、3科目に合格した状態で試験を「諦めた」私のリアルな体験談をお話しします。
撤退は決して「敗北」ではありませんでした。科目合格という武器を活かして掴んだ「その後のキャリア」について、包み隠さずお伝えします。
私が税理士試験からの「撤退」を決めた3つの理由
私は「簿記論」「財務諸表論」「消費税法」の3科目を、働きながら4年かけて合格しました。しかし、そこから「法人税法」の壁に3年間跳ね返され続け、最終的に筆を置きました。
理由①:「合格率10%」の運ゲーに人生を預ける恐怖
勉強時間が300時間を超えたあたりから、模試では上位に入っていました。しかし、本試験では受からない。
「実力はあるはずなのに、なぜ?」という自問自答と、「あと何年これを続ければいいのか」という出口の見えない恐怖に、メンタルが限界を迎えました。自分の努力だけではどうにもならない「運」の要素に、人生を賭け続けることが怖くなったのです。
理由②:年齢とキャリアの焦り
20代後半から勉強を始め、気づけば30代半ば。「資格はないが勉強中のベテラン受験生」という立場。
周りの友人は昇進し、結婚し、家を建てている。「自分はいつまで『学生気分』でいるんだろう?」という劣等感が、勉強への集中力を奪っていきました。
理由③:「税理士になること」が目的ではなくなっていた
冷静に考えた時、私が欲しかったのは「税理士バッジ」そのものではなく、「専門性を持って安定して稼ぐこと」や「会社に依存しないスキル」でした。
「あれ? それなら、必ずしも税理士にならなくても、今の知識で実現できるのでは?」と気づいた瞬間、憑き物が落ちたように撤退を決意しました。
「科目合格」は無駄になる? 転職市場のリアルな評価
試験を辞める時、一番怖かったのは「ただの試験に落ちた人」として扱われることでした。
しかし、転職エージェントに登録して驚きました。「科目合格者(特に簿財持ち)」の市場価値は、想像以上に高かったのです。
企業側からの評価
- 一般企業の経理:
「日商簿記1級」と同等、あるいはそれ以上の評価を受けました。「税法の知識がある経理」は非常に重宝されます。 - 会計事務所・コンサル:
「官報合格して独立してしまう人」よりも、「科目合格を持っていて、組織で長く働いてくれる人」の方が、実は採用したいという本音を聞きました。
私が選んだ「その後のキャリア」と現在の生活
私は最終的に、会計事務所から「上場企業の経理職(決算担当)」へ転職しました。
| 項目 | 受験生時代(会計事務所) | 現在(上場企業経理) |
|---|---|---|
| 年収 | 350万円 | 650万円(+残業代・賞与) |
| 土日 | 自習室に缶詰 | 完全オフ(家族と過ごす) |
| 仕事内容 | 記帳代行、確定申告 | 連結決算、開示資料作成、監査対応 |
| 精神状態 | 常に焦燥感・罪悪感 | 安定・充実感 |
今の職場で、「簿財」と「消費税」の知識は毎日フル稼働しています。監査法人の公認会計士と対等に議論できるのは、あの過酷な受験勉強があったからです。
「税理士にはなれなかったけれど、税務会計のプロフェッショナルにはなれた」と胸を張って言えます。
「撤退」ではなく「戦略的ピボット(方向転換)」である
もし今、あなたが試験を辞めることで「自分は敗北者だ」「今までの時間とお金をドブに捨てた」と思っているなら、それは間違いです。
科目合格という「資産」は残っています。
あなたが数千時間かけて培った「会計脳」「税務知識」そして「忍耐力」は、試験を辞めた瞬間に消えるものではありません。
その資産を「合格」という一点に投資するのをやめて、「キャリア(実務)」という別の市場に投資先を変えるだけです。
まとめ:幸せになるための選択を
税理士試験は、人生を豊かにするための「手段」であって「目的」ではありません。
手段が目的化してしまい、今の生活や精神が崩壊してしまうなら、それは本末転倒です。
諦めることには勇気がいります。しかし、その勇気を出して別の道を選んだ先には、「勉強しなきゃ」という呪縛から解放された、人間らしい幸せな日々が待っていました。
5科目揃わなくても、あなたは十分に戦えます。どうか、ご自身が一番笑って過ごせる選択をしてください。

