簿記3級無料講座 第18回:お金が回収できない場合に備える「貸倒引当金」の設定と計算

こんにちは!「簿記3級合格へ導く!無料Web講座」へようこそ。講師の簿記3級講座です。

第17回では、決算整理の第一弾として、「しーくり、くりしー」の仕訳で正しい「売上原価」を計算する方法を学びました。これで、売上とそれに対応する原価がハッキリしましたね。

さて、決算整理は「会社の正しい成績」を出すための作業です。
ここで、「売掛金」や「受取手形」(あわせて「売上債権」といいます)に目を向けてみましょう。試算表には「売掛金 1,000,000円」と載っているかもしれません。
しかし、その100万円、本当に全額、来年回収できるでしょうか?

取引先が倒産して、お金が回収できなくなるかもしれません。この「売掛金などが回収できなくなること」を「貸倒れ」といいます。

今回は、この「貸倒れ」というリスクに、決算であらかじめ備えておくための重要な処理、「貸倒引当金」の設定と計算方法をマスターしましょう!

今日のゴール

  • 「貸倒れ」とは何か、なぜ事前に備える必要があるのかがわかる
  • 「貸倒引当金」(資産のマイナス)と「貸倒引当金繰入」(費用)という2つの勘定科目の役割がわかる
  • (期末の債権残高 × 実績率)で「必要な見積額」を計算できる
  • 「差額補充法」の意味を理解し、決算整理仕訳ができる

「貸倒引当金」とは? – リスクに備える引当金

もし、来期に10万円の売掛金が貸倒れたら、その期に10万円の「貸倒損失(費用)」が発生し、利益がガクッと減ってしまいます。

しかし、その貸倒れの原因となった「売上(収益)」は、今期(今年)に計上されています。
これでは、収益(今期)と費用(来期)の対応が取れておらず、正しい期間の利益が計算できません(=発生主義の違反)。

そこで、簿記では「保守主義の原則」(将来の損失には早めに備えよう)という考え方に基づき、決算の時点で「今ある売掛金のうち、来期にこれくらいは貸倒れるかもしれないな…」という金額を見積もり、あらかじめ今期の費用として計上します。

この「貸倒れの見積額」を計上するための勘定科目が「貸倒引当金」です。

2つの新・勘定科目

この処理では、2つの新しい勘定科目を使います。役割をしっかり区別してください。

  1. 貸倒引当金繰入
    • グループ: 費用
    • 役割: 貸倒れの見積額を、今期の費用として計上するための勘定科目。損益計算書(P/L)に行きます。
  2. 貸倒引当金
    • グループ: 資産のマイナス(評価勘定)
    • 役割: 「売掛金」や「受取手形」の価値を間接的に減らすための勘定科目。「売掛金から、これくらいは回収できないかも」という控除(マイナス)項目として、貸借対照表(B/S)に行きます。

「貸倒引当金繰入」(費用)を使って、「貸倒引当金」(資産のマイナス)という“貸倒れに備える引当金”を設定する、というイメージです。

貸倒引当金の計算方法 – 「差額補充法」

では、いくら費用(繰入額)を計上すればよいのでしょうか。
簿記3級では「差額補充法」という方法を使います。これは「足りない分だけ補充する」方法です。

ステップ1:今期末に必要な「引当金のゴール額」を計算する

まず、期末時点で「売掛金」「受取手形」がいくらあるかを確認し、それに「貸倒実績率(過去の経験から見積もった貸倒れ率)」を掛けて、最終的に必要な引当金のゴール額(要設定額)を計算します。

要設定額 =(期末の売掛金残高 + 受取手形残高) × 貸倒実績率(%)

ステップ2:現在の「引当金の残高」を確認する

決算整理前残高試算表に、「貸倒引当金」の残高が残っている場合があります。
これは、前期末に設定した引当金が、今期使われずに残ったものです。

ステップ3:「足りない金額」だけを「繰り入れる」(仕訳する)

ステップ1で計算した「ゴール額」になるように、ステップ2の「現在の残高」との差額だけを補充(繰り入れ)します。

当期の繰入額(仕訳する金額) = ①要設定額 - ②現在の残高

設例でマスター!「差額補充法」の仕訳

この流れを、具体的な設例で見ていきましょう。

【設例】

  • 決算日になった。
  • 期末の売掛金残高は800,000円、受取手形残高は200,000円であった。
  • 貸倒実績率は 2% とする。
  • (問)決算整理前の貸倒引当金残高が 5,000円 あった場合の仕訳は?

【考え方(差額補充法)】

ステップ1:ゴール額(要設定額)の計算

(800,000円 + 200,000円) × 2% = 1,000,000円 × 2% = 20,000円
→ 決算後の貸倒引当金の残高を 20,000円 にすることがゴールです。

ステップ2:現在の残高の確認

決算整理前の残高は 5,000円 です。

ステップ3:繰入額(仕訳額)の計算

20,000円(ゴール) - 5,000円(現在) = 15,000円(補充する額)

【決算整理仕訳】

この15,000円(費用)を「繰り入れ」て、同額の「引当金」(資産のマイナス)を増やします。

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金繰入 15,000 貸倒引当金 15,000

T勘定での動き

この仕訳によって、T勘定(総勘定元帳)がどう動くか確認しましょう。

貸倒引当金(資産のマイナス)
借方(減少) 貸方(増加)
(整理前) 5,000 (②)
(整理仕訳) 15,000 (③)
決算後残高: 20,000円(貸方)
→ ゴール(①)達成!
貸倒引当金繰入(費用)
借方(発生) 貸方(取消)
(整理仕訳) 15,000 (③)
今期の費用: 15,000円
→ 損益計算書(P/L)へ

※もし、決算整理前の貸倒引当金残高が「0円」だったら?
(ゴール 20,000円)-(現在 0円)= 20,000円 が繰入額となります。

貸借対照表(B/S)での表示方法

この決算整理の結果、貸借対照表(B/S)の「資産の部」は以下のようになります。

貸借対照表(一部)

【資産の部】

  • 売掛金
  • 800,000
  • 受取手形
  • 200,000
  • 貸倒引当金
  • △ 20,000
  • (差引) 980,000

このように、「貸倒引当金」は、売掛金や受取手形からマイナスする形で表示されます。
「債権は100万円あるけど、実質的な価値は98万円くらいだよね」ということを報告するわけです。

POINTまとめ

  • 貸倒れとは、売掛金などが回収できなくなること。
  • 貸倒引当金は、将来の貸倒れに備えるための見積額(資産のマイナス)。
  • 貸倒引当金繰入は、引当金を設定するための今期の費用
  • 計算方法は「差額補充法」(足りない分だけ補充する)。
  • 当期の繰入額 =(期末債権残高 × 実績率)-(決算整理前の引当金残高)
  • 決算整理仕訳は、(借)貸倒引当金繰入 / (貸)貸倒引当金 となる。

ミニクイズ

お疲れ様でした!「しーくり、くりしー」に続く、決算整理の重要論点でした。計算方法をしっかり押さえましょう。

【Q1】決算整理で、貸倒れの見積額を当期の費用として計上する際に使う「費用」の勘定科目はどれ?

  1. 貸倒損失
  2. 貸倒引当金
  3. 貸倒引当金繰入
答えを見る

【A1】3. 貸倒引当金繰入

解説:「貸倒引当金」は資産のマイナス項目。「貸倒損失」は、引当金を超えて実際に貸倒れが発生したときに使う費用です。決算整理で「設定」する費用は「繰入」です。

【Q2】期末の売掛金残高が 300,000円、貸倒実績率が 3% だった。決算整理前の貸倒引当金残高は 4,000円である。決算整理仕訳で「貸倒引当金繰入」として計上する金額はいくら?

  1. 4,000円
  2. 5,000円
  3. 9,000円
答えを見る

【A2】2. 5,000円

解説:
①ゴール(要設定額)= 300,000円 × 3% = 9,000円
②現在の残高 = 4,000円
③繰入額 = 9,000円 - 4,000円 = 5,000円

これで、「商品」と「債権」という2つの大きな資産の調整が終わりました。
次回は、もう一つの大きな資産、「建物」や「備品」の調整です。

第8回で基本を学んだ、あの「減価償却」を決算整理仕訳として、より実践的に(期中購入のケースなど)学んでいきます!お楽しみに!

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