こんにちは!「簿記3級合格へ導く!無料Web講座」へようこそ。
第16回では、いよいよ簿記のクライマックス「決算」の世界に足を踏み入れました。私たちが日々集計してきた「決算整理前残高試算表」はまだ未完成であり、会社の正しい成績を出すためには「決算整理仕訳」という特別な調整が必要になる、ということを学びましたね。
今回から、その決算整理仕訳を一つずつ具体的に攻略していきます!
その第一弾は、会社の「儲け」の根幹に関わる、「売上原価」の計算です。
日々の仕訳では「仕入」という勘定科目を使ってきましたが、あの数字は「売上原価」ではありません。
このズレを修正する有名なおまじない、「しーくり、くりしー」の意味と方法を、今回で完璧にマスターしましょう!
今日のゴール
- なぜ決算整理前の「仕入」勘定が「売上原価」ではないのか、理由がわかる
- 「売上原価」を計算するための公式(期首+当期仕入-期末)を理解する
- 「しーくり、くりしー」という決算整理仕訳の具体的なやり方と意味がわかる
- 仕訳と転記(T勘定)を通じて、最終的な「売上原価」と「繰越商品」の残高を計算できる
「仕入」勘定は「売上原価」ではない!
まず、スタート地点の確認です。
「決算整理前残高試算表」に載っている「仕入」勘定の残高。これは、「この1年間に購入した商品の合計金額」を示しているに過ぎません。
しかし、私たちが知りたいのは「この1年間に売れた商品の原価(売上原価)」です。
なぜこの2つは違うのでしょうか?
- 期首商品棚卸高→ 期が始まった時点で、去年の売れ残り(期首在庫)があったはずです。これも当然、今年売る商品に含まれます。
- 期末商品棚卸高→ 期末の時点で、倉庫に今年の売れ残り(期末在庫)があるはずです。これは今年仕入れたけれど、まだ売れていません。
つまり、「決算整理前」の「仕入」勘定は、「期首在庫」を足しておらず、かつ「期末在庫」を引いていない、中途半端な数字なのです。
「売上原価」の計算(ボックス図で理解しよう)
では、どうやって「売上原価」を計算するのか。以下の公式で計算します。
「うっ、暗記か…」と思った方、待ってください。これは丸暗記ではなく、モノの流れで考えると当然のことです。
この「売上原価のボックス図」でイメージを掴みましょう。
【入ってきたモノ】
①期首在庫
(最初からあった)
+
②当期仕入
(今年買った)
【出ていったモノ】
③売上原価
(売れて出ていった)
+
④期末在庫
(売れ残った)
( ① + ② = ③ + ④ )
この図から、私たちが知りたい「③売上原価」は、
③売上原価 = ①期首在庫 + ②当期仕入 - ④期末在庫
となることがわかりますね!
魔法のおまじない「しーくり、くりしー」
簿記では、この「①+②-④」の計算を、たった2行の決算整理仕訳で行います。
それが、あの有名な「しーくり、くりしー」です。
この仕訳は、2つの勘定科目(仕入、繰越商品)を使って、上で説明した計算を実行しています。
- 仕入:「費用」の勘定科目。決算整理前は「②当期仕入」の金額になっている。
- 繰越商品:「資産」の勘定科目。決算整理前は「①期首在庫」の金額になっている(去年の期末在庫が繰り越されてきたから)。
ステップ1: 「し・くり」(仕入 / 繰越商品)
これは、公式の「+①期首在庫」の部分を実行する仕訳です。
【仕訳①】(し・くり)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入 | (①期首在庫の金額) | 繰越商品 | (①期首在庫の金額) |
【意味】
- (貸)繰越商品:期首在庫(古い資産)をゼロにする。
- (借)仕入:その金額を「仕入」(費用)に足し込む。
→ この時点で、「仕入」勘定の残高は「②当期仕入+①期首在庫」となります。
ステップ2: 「くり・しー」(繰越商品 / 仕入)
これは、公式の「-④期末在庫」の部分を実行する仕訳です。
【仕訳②】(くり・しー)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 繰越商品 | (④期末在庫の金額) | 仕入 | (④期末在庫の金額) |
【意味】
- (借)繰越商品:倉庫で数えた期末在庫(新しい資産)を計上する。
- (貸)仕入:その金額を「仕入」(費用)から引く(売れてないから)。
→ この時点で、「仕入」勘定の残高は「②当期仕入+①期首在庫-④期末在庫」となり、=売上原価が完成します!
設例で確認しよう!
「しーくり、くりしー」をT勘定で見てみると、一目瞭然です。
【設例】
- 決算整理前残高試算表の残高
- 繰越商品:20,000円(=①期首在庫)
- 仕入:300,000円(=②当期仕入)
- 決算整理事項
- 期末商品棚卸高は、30,000円であった。(=④期末在庫)
【決算整理仕訳】
1. しーくり (期首在庫20,000円を使って)
(借)仕入 20,000 / (貸)繰越商品 20,000
2. くりしー (期末在庫30,000円を使って)
(借)繰越商品 30,000 / (貸)仕入 30,000
【総勘定元帳(T勘定)の動き】
| 繰越商品(資産) | |
|---|---|
| 借方 | 貸方 |
| (整理前) 20,000 (①期首) (2) 30,000 (④期末) |
(1) 20,000 |
| 残高: 30,000円(借方) → 貸借対照表(B/S)へ |
|
| 仕入(費用) | |
|---|---|
| 借方 | 貸方 |
| (整理前) 300,000 (②当期仕入) (1) 20,000 (①期首) |
(2) 30,000 (④期末) |
| 残高: 290,000円(借方) → 損益計算書(P/L)へ |
|
【結果】
「仕入」勘定の残高は (300,000 + 20,000) – 30,000 = 290,000円 となりました。
これが、公式(①+②-④)で計算した「売上原価」(20,000 + 300,000 – 30,000 = 290,000円)と一致します!
そして、「繰越商品」勘定の残高は30,000円となり、期末の正しい在庫(資産)の額になりました。
POINTまとめ
- 決算整理前の「仕入」残高は「当期仕入高」、「繰越商品」残高は「期首在庫」を意味する。
- 正しい「売上原価」を計算する公式は
(売上原価)=(期首在庫)+(当期仕入)-(期末在庫) - この計算を行う決算整理仕訳が「しーくり、くりしー」である。
- しーくり:(借)仕入 / (貸)繰越商品 ※金額は「期首在庫」
- くりしー:(借)繰越商品 / (貸)仕入 ※金額は「期末在庫」
- この2本の仕訳の結果、「仕入」勘定の残高は「売上原価」になり、「繰越商品」勘定の残高は「期末在庫」になる。
ミニクイズ
お疲れ様でした!決算整理の最初の関門、「しーくり、くりしー」はマスターできましたか?クイズで確認しましょう!
【Q1】決算整理前の残高試算表に記載されている「繰越商品」勘定の残高が意味するものはどれ?
- 期末商品棚卸高
- 期首商品棚卸高
- 売上原価
答えを見る
【A1】2. 期首商品棚卸高
解説:決算整理前は、まだ期首(1年前)の在庫データがそのまま残っています。「しーくり」の仕訳で、この古いデータをゼロにします。
【Q2】「しーくり、くりしー」の「しーくり」((借)仕入 / (貸)繰越商品)の仕訳で使う金額はどれ?
- 期末商品棚卸高
- 期首商品棚卸高
- 当期商品仕入高
答えを見る
【A2】2. 期首商品棚卸高
解説:「しーくり」は期首在庫を仕入に足し込む仕訳です。
逆に「くりしー」((借)繰越商品 / (貸)仕入) は、期末在庫を計上し、仕入から引く仕訳です。
【Q3】期首在庫が10,000円、当期仕入が200,000円、期末在庫が15,000円だった。売上原価はいくら?
- 195,000円
- 200,000円
- 205,000円
答えを見る
【A3】1. 195,000円
解説:公式に当てはめます。
(期首)10,000円 + (当期仕入)200,000円 - (期末)15,000円 = 195,000円 です。
これで、決算整理の最重要項目が一つ終わりました!この「しーくり、くりしー」は、試験でも必ずと言っていいほど問われますので、T勘定の動きとセットで確実に覚えてください。
次回は、決算整理の第2弾。
私たちが持っている「売掛金」や「受取手形」は、本当に全額回収できるでしょうか?
「もしかしたら、取引先が倒産して回収できないかも…」というリスクに備えるための会計処理、「貸倒引当金」の設定について学びます!お楽しみに!

