簿記3級無料講座 第17回:正しい売上原価を計算しよう「しーくり、くりしー」の意味とは?

こんにちは!「簿記3級合格へ導く!無料Web講座」へようこそ。

第16回では、いよいよ簿記のクライマックス「決算」の世界に足を踏み入れました。私たちが日々集計してきた「決算整理前残高試算表」はまだ未完成であり、会社の正しい成績を出すためには「決算整理仕訳」という特別な調整が必要になる、ということを学びましたね。

今回から、その決算整理仕訳を一つずつ具体的に攻略していきます!

その第一弾は、会社の「儲け」の根幹に関わる、「売上原価」の計算です。
日々の仕訳では「仕入」という勘定科目を使ってきましたが、あの数字は「売上原価」ではありません。
このズレを修正する有名なおまじない、「しーくり、くりしー」の意味と方法を、今回で完璧にマスターしましょう!

今日のゴール

  • なぜ決算整理前の「仕入」勘定が「売上原価」ではないのか、理由がわかる
  • 「売上原価」を計算するための公式(期首+当期仕入-期末)を理解する
  • 「しーくり、くりしー」という決算整理仕訳の具体的なやり方と意味がわかる
  • 仕訳と転記(T勘定)を通じて、最終的な「売上原価」と「繰越商品」の残高を計算できる

「仕入」勘定は「売上原価」ではない!

まず、スタート地点の確認です。
「決算整理前残高試算表」に載っている「仕入」勘定の残高。これは、「この1年間に購入した商品の合計金額」を示しているに過ぎません。

しかし、私たちが知りたいのは「この1年間に売れた商品の原価(売上原価)」です。

なぜこの2つは違うのでしょうか?

  1. 期首商品棚卸高→ 期が始まった時点で、去年の売れ残り(期首在庫)があったはずです。これも当然、今年売る商品に含まれます。
  2. 期末商品棚卸高→ 期末の時点で、倉庫に今年の売れ残り(期末在庫)があるはずです。これは今年仕入れたけれど、まだ売れていません。

つまり、「決算整理前」の「仕入」勘定は、「期首在庫」を足しておらず、かつ「期末在庫」を引いていない、中途半端な数字なのです。

「売上原価」の計算(ボックス図で理解しよう)

では、どうやって「売上原価」を計算するのか。以下の公式で計算します。

売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高

「うっ、暗記か…」と思った方、待ってください。これは丸暗記ではなく、モノの流れで考えると当然のことです。
この「売上原価のボックス図」でイメージを掴みましょう。

【入ってきたモノ】

①期首在庫
(最初からあった)

②当期仕入
(今年買った)

【出ていったモノ】

③売上原価
(売れて出ていった)

④期末在庫
(売れ残った)

【入ってきたモノ】の合計 = 【出ていったモノ】の合計
( ① + ② = ③ + ④ )

この図から、私たちが知りたい「③売上原価」は、
③売上原価 = ①期首在庫 + ②当期仕入 - ④期末在庫
となることがわかりますね!

魔法のおまじない「しーくり、くりしー」

簿記では、この「①+②-④」の計算を、たった2行の決算整理仕訳で行います。
それが、あの有名な「しーくり、くりしー」です。

この仕訳は、2つの勘定科目(仕入、繰越商品)を使って、上で説明した計算を実行しています。

  • 仕入:「費用」の勘定科目。決算整理前は「②当期仕入」の金額になっている。
  • 繰越商品:「資産」の勘定科目。決算整理前は「①期首在庫」の金額になっている(去年の期末在庫が繰り越されてきたから)。

ステップ1: 「し・くり」(仕入 / 繰越商品)

これは、公式の「+①期首在庫」の部分を実行する仕訳です。

【仕訳①】(し・くり)

借方 金額 貸方 金額
仕入 (①期首在庫の金額) 繰越商品 (①期首在庫の金額)

【意味】

  • (貸)繰越商品:期首在庫(古い資産)をゼロにする。
  • (借)仕入:その金額を「仕入」(費用)に足し込む。

→ この時点で、「仕入」勘定の残高は「②当期仕入+①期首在庫」となります。

ステップ2: 「くり・しー」(繰越商品 / 仕入)

これは、公式の「-④期末在庫」の部分を実行する仕訳です。

【仕訳②】(くり・しー)

借方 金額 貸方 金額
繰越商品 (④期末在庫の金額) 仕入 (④期末在庫の金額)

【意味】

  • (借)繰越商品:倉庫で数えた期末在庫(新しい資産)を計上する。
  • (貸)仕入:その金額を「仕入」(費用)から引く(売れてないから)。

→ この時点で、「仕入」勘定の残高は「②当期仕入+①期首在庫-④期末在庫」となり、=売上原価が完成します!

設例で確認しよう!

「しーくり、くりしー」をT勘定で見てみると、一目瞭然です。

【設例】

  • 決算整理前残高試算表の残高
    • 繰越商品:20,000円(=①期首在庫)
    • 仕入:300,000円(=②当期仕入)
  • 決算整理事項
    • 期末商品棚卸高は、30,000円であった。(=④期末在庫)

【決算整理仕訳】

1. しーくり (期首在庫20,000円を使って)
(借)仕入 20,000 / (貸)繰越商品 20,000

2. くりしー (期末在庫30,000円を使って)
(借)繰越商品 30,000 / (貸)仕入 30,000

【総勘定元帳(T勘定)の動き】

繰越商品(資産)
借方 貸方
(整理前) 20,000 (①期首)
(2) 30,000 (④期末)
(1) 20,000
残高: 30,000円(借方)
→ 貸借対照表(B/S)へ
仕入(費用)
借方 貸方
(整理前) 300,000 (②当期仕入)
(1) 20,000 (①期首)
(2) 30,000 (④期末)
残高: 290,000円(借方)
→ 損益計算書(P/L)へ

【結果】

「仕入」勘定の残高は (300,000 + 20,000) – 30,000 = 290,000円 となりました。
これが、公式(①+②-④)で計算した「売上原価」(20,000 + 300,000 – 30,000 = 290,000円)と一致します!

そして、「繰越商品」勘定の残高は30,000円となり、期末の正しい在庫(資産)の額になりました。

POINTまとめ

  • 決算整理前の「仕入」残高は「当期仕入高」、「繰越商品」残高は「期首在庫」を意味する。
  • 正しい「売上原価」を計算する公式は
    (売上原価)=(期首在庫)+(当期仕入)-(期末在庫)
  • この計算を行う決算整理仕訳が「しーくり、くりしー」である。
    1. しーくり:(借)仕入 / (貸)繰越商品 ※金額は「期首在庫」
    2. くりしー:(借)繰越商品 / (貸)仕入 ※金額は「期末在庫」
  • この2本の仕訳の結果、「仕入」勘定の残高は「売上原価」になり、「繰越商品」勘定の残高は「期末在庫」になる。

ミニクイズ

お疲れ様でした!決算整理の最初の関門、「しーくり、くりしー」はマスターできましたか?クイズで確認しましょう!

【Q1】決算整理前の残高試算表に記載されている「繰越商品」勘定の残高が意味するものはどれ?

  1. 期末商品棚卸高
  2. 期首商品棚卸高
  3. 売上原価
答えを見る

【A1】2. 期首商品棚卸高

解説:決算整理前は、まだ期首(1年前)の在庫データがそのまま残っています。「しーくり」の仕訳で、この古いデータをゼロにします。

【Q2】「しーくり、くりしー」の「しーくり」((借)仕入 / (貸)繰越商品)の仕訳で使う金額はどれ?

  1. 期末商品棚卸高
  2. 期首商品棚卸高
  3. 当期商品仕入高
答えを見る

【A2】2. 期首商品棚卸高

解説:「しーくり」は期首在庫を仕入に足し込む仕訳です。
逆に「くりしー」((借)繰越商品 / (貸)仕入) は、期末在庫を計上し、仕入から引く仕訳です。

【Q3】期首在庫が10,000円、当期仕入が200,000円、期末在庫が15,000円だった。売上原価はいくら?

  1. 195,000円
  2. 200,000円
  3. 205,000円
答えを見る

【A3】1. 195,000円

解説:公式に当てはめます。
(期首)10,000円 + (当期仕入)200,000円 - (期末)15,000円 = 195,000円 です。

これで、決算整理の最重要項目が一つ終わりました!この「しーくり、くりしー」は、試験でも必ずと言っていいほど問われますので、T勘定の動きとセットで確実に覚えてください。

次回は、決算整理の第2弾。
私たちが持っている「売掛金」や「受取手形」は、本当に全額回収できるでしょうか?
「もしかしたら、取引先が倒産して回収できないかも…」というリスクに備えるための会計処理、「貸倒引当金」の設定について学びます!お楽しみに!

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