こんにちは!「簿記3級合格へ導く!無料Web講座」へようこそ。
第6回では、商品売買における「掛け」取引、つまり「売掛金」と「買掛金」を学びました。これらは口約束や簡単な請求書など、当事者間の信用(クレジット)に基づく取引でしたね。
しかし、ビジネスの世界、特に金額が大きくなる取引では、「後で必ず支払います」という口約束だけでは不安な場合があります。そこで登場するのが、「約束手形」という、より強力な証書です。
今回は、この「手形」が関わる取引、簿記3級の重要論点である「受取手形」と「支払手形」の仕訳を徹底的にマスターしましょう!
今日のゴール
- 「約束手形」がどのようなものか理解する
- 商品を仕入れ、手形を振り出した時の「支払手形」(負債)の仕訳ができる
- 手形の支払期日が来て、支払いを行った時の仕訳ができる
- 商品を売り上げ、手形を受け取った時の「受取手形」(資産)の仕訳ができる
- 手形の支払期日が来て、代金を回収した時の仕訳ができる
「約束手形」とは?
「約束手形」とは、簡単に言えば「指定した期日(支払期日)に、指定した金額を支払うことを約束する」という内容が書かれた、法的な力を持つ「証書(紙切れ)」のことです。
「買掛金」が単なる「ツケ」だったのに対し、「支払手形」は「借用証書」に近いイメージです。そのため、経理上も「買掛金」とはしっかり区別して管理する必要があります。
手形取引の登場人物(イラスト解説)
手形取引には、主に2人の登場人物がいます。
- 振出人:手形を作成し、支払いを約束する人(会社)。
- 名宛人:手形を受け取り、後で代金をもらう権利がある人(会社)。
約束手形の流れ
① 商品の取引
(当社がこっちの場合)
← 商品 ←
→ 約束手形 →
(当社がこっちの場合)
② 支払期日(満期日)の決済
振出人の銀行口座
(当座預金)
→ 代金 →
名宛人の銀行口座
(当座預金)
この2つの立場に応じて、簿記で使う勘定科目が変わります。
- 振出人(支払う側):「支払手形」(負債)
- 名宛人(受け取る側):「受取手形」(資産)
「支払手形」の仕訳(手形を振り出した側)
自分が「振出人」となり、約束手形を振り出して(発行して)渡したときは、「支払手形」を使います。
これは「買掛金」と同じく、「後で代金を支払わなければならない義務」なので、「負債」のグループです。
- 負債が増えたら(手形を振り出したら) → 貸方(右側)に「支払手形」
- 負債が減ったら(手形を支払ったら) → 借方(左側)に「支払手形」
設例①:商品を仕入れ、約束手形を振り出した(負債の発生)
【設例1】A商店から商品100,000円を仕入れ、代金として約束手形を振り出して渡した。
【考え方】
- 「仕入」(費用)が100,000円発生した → 借方(左)に「仕入 100,000」
- 「支払手形」(負債)が100,000円増えた → 貸方(右)に「支払手形 100,000」
【仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入 | 100,000 | 支払手形 | 100,000 |
※貸方が「買掛金」ではなく「支払手形」になる点に注意!
設例②:手形の支払期日が来て、代金が引き落とされた(負債の減少)
【設例2】上記設例1の手形100,000円の支払期日となり、当座預金口座から代金が引き落とされた。
【考え方】
- 「支払手形」(負債)が100,000円減った → 借方(左)に「支払手形 100,000」
- 「当座預金」(資産)が100,000円減った → 貸方(右)に「当座預金 100,000」
【仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 支払手形 | 100,000 | 当座預金 | 100,000 |
「受取手形」の仕訳(手形を受け取った側)
自分が「名宛人」となり、取引先から約束手形を受け取ったときは、「受取手形」を使います。
これは「売掛金」と同じく、「後で代金を受け取る権利」なので、「資産」のグループです。
- 資産が増えたら(手形を受け取ったら) → 借方(左側)に「受取手形」
- 資産が減ったら(代金を回収したら) → 貸方(右側)に「受取手形」
設例③:商品を売り上げ、約束手形を受け取った(資産の増加)
【設例3】B商店に商品200,000円を売り上げ、代金として同店振出の約束手形を受け取った。
【考え方】
- 「受取手形」(資産)が200,000円増えた → 借方(左)に「受取手形 200,000」
- 「売上」(収益)が200,000円発生した → 貸方(右)に「売上 200,000」
【仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 受取手形 | 200,000 | 売上 | 200,000 |
※借方が「売掛金」ではなく「受取手形」になる点に注意!
設例④:手形の支払期日が来て、代金が振り込まれた(資産の減少)
【設例4】上記設例3の手形200,000円の支払期日となり、当座預金口座に代金が振り込まれた。
【考え方】
- 「当座預金」(資産)が200,000円増えた → 借方(左)に「当座預金 200,000」
- 「受取手形」(資産)が200,000円減った → 貸方(右)に「受取手形 200,000」
【仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 当座預金 | 200,000 | 受取手形 | 200,000 |
「掛け」と「手形」の使い分け【重要】
第6回で学んだ「売掛金」「買掛金」と、今回学んだ「受取手形」「支払手形」は、どちらも商品売買の「後払い・後受け」で使われます。
これらは似ていますが、簿記上は「まったく別のもの」として厳密に区別します。
- 「掛け」取引(口約束など)→ 売掛金(資産)/ 買掛金(負債)
- 「手形」取引(証書あり)→ 受取手形(資産)/ 支払手形(負債)
試験問題では「代金は掛けとした」「代金として約束手形を〜」という言葉で、どちらを使うべきか判断します。
(参考)売掛金を、後から手形で回収するケース
実務では、まず「掛け」で売り上げ(売掛金)、その支払いを後日「約束手形」で行う、というケースもあります。
【設例5】得意先C商店に対する売掛金50,000円について、同店振出の約束手形を受け取った。
【考え方】
- 「売掛金」(後で貰う権利)が「受取手形」(後で貰う権利)という別の権利に変わった、と考えます。
- 「受取手形」(資産)が50,000円増えた → 借方(左)に「受取手形 50,000」
- 「売掛金」(資産)が50,000円減った → 貸方(右)に「売掛金 50,000」
【仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 受取手形 | 50,000 | 売掛金 | 50,000 |
POINTまとめ
- 「約束手形」は、決まった期日にお金を支払うことを約束する「証書」。
- 手形を振り出した(支払う)側は、「支払手形」(負債)を使う。
- 発生時(振り出し時):(借)仕入など / (貸)支払手形
- 決済時(支払い時):(借)支払手形 / (貸)当座預金など
- 手形を受け取った(もらう)側は、「受取手形」(資産)を使う。
- 発生時(受け取り時):(借)受取手形 / (貸)売上など
- 決済時(回収時):(借)当座預金など / (貸)受取手形
- 「買掛金」と「支払手形」、「売掛金」と「受取手形」は、厳密に区別すること!
ミニクイズ
お疲れ様でした!「手形」は簿記3級で多くの人がつまずきやすい論点です。基本をしっかり押さえましょう。
【Q1】商品60,000円を仕入れ、代金として約束手形を振り出して支払った。このときの仕訳として正しいものはどれ?
- (借) 仕入 60,000 / (貸) 買掛金 60,000
- (借) 仕入 60,000 / (貸) 支払手形 60,000
- (借) 支払手形 60,000 / (貸) 仕入 60,000
答えを見る
【A1】2. (借) 仕入 60,000 / (貸) 支払手形 60,000
解説:商品を「仕入れ」(費用発生・借方)、「約束手形を振り出した」(支払う義務=支払手形(負債)の発生・貸方)です。
【Q2】得意先に商品100,000円を売り上げ、代金として得意先振出の約束手形を受け取った。このときの仕訳として正しいものはどれ?
- (借) 売掛金 100,000 / (貸) 売上 100,000
- (借) 受取手形 100,000 / (貸) 売上 100,000
- (借) 現金 100,000 / (貸) 売上 100,000
答えを見る
【A2】2. (借) 受取手形 100,000 / (貸) 売上 100,000
解説:「約束手形を受け取った」(受け取る権利=受取手形(資産)の増加・借方)、「売り上げ」(収益発生・貸方)です。
【Q3】以前振り出していた約束手形80,000円が支払期日となり、当座預金から引き落とされた。このときの仕訳として正しいものはどれ?
- (借) 支払手形 80,000 / (貸) 当座預金 80,000
- (借) 当座預金 80,000 / (貸) 支払手形 80,000
- (借) 買掛金 80,000 / (貸) 当座預金 80,000
答えを見る
【A3】1. (借) 支払手形 80,000 / (貸) 当座預金 80,000
解説:手形を支払った(決済した)ので、「支払う義務」(支払手形(負債))が借方(左)で減少し、「当座預金」(資産)が貸方(右)で減少します。
これで商品売買の基本的な流れ(現金、掛け、手形)は一通りマスターしました!
次回からは、会社が長期間使用する「モノ」の処理に移ります。机、パソコン、車、建物など、いわゆる「固定資産」の購入と、ちょっと特殊なルール「減価償却」について学んでいきます。お楽しみに!

