「会計の資格でキャリアアップしたい」
「税理士と公認会計士は、どっちが難しい?」
「働きながらでも、数年かけて取得できるって本当?」
税理士は、「税」に関する独占業務(税務代理、税務書類の作成、税務相談)を一手に担う、税務のスペシャリストです。
その難易度は、公認会計士や司法試験と並び称される最難関国家資格の一つですが、試験制度が根本的に異なります。
結論から言えば、税理士試験の難易度は「全科目を一気に合格する瞬発力」ではなく、「1科目ずつ確実に合格し、それを5回クリアするまでの持続力」が問われる、「人生をかけた長距離マラソン」型の試験です。
税理士試験とは? その特異な「科目合格制」
税理士試験の難易度を語る上で、**「科目合格制」**の理解が不可欠です。
公認会計士試験が「短答式」「論文式」の2段階を、全科目一括で合格しなければならない(失敗すればゼロに戻る)のに対し、税理士試験は全11科目のうち、合計5科目に合格すれば資格が取得できます。
最大の特徴:
- 合格は「積み上げ式」: 1科目ずつ受験・合格が可能です。
- 合格は「生涯有効」: 一度合格した科目は、何年かかっても(たとえ10年後でも)有効です。
- 「働きながら」取得可能: この制度のおかげで、多くの受験生が社会人として働きながら、「今年は1科目だけ」「来年は2科目」というように、数年〜十数年かけて合格を目指します。
税理士試験の難易度をデータで分析
この「科目合格制」を踏まえた上で、難易度をデータで見ていきましょう。
1. 合格率:1科目ごとの「ふるい落とし」
税理士試験の合格率は、**「最終合格率」ではなく「科目ごとの合格率」**で見なければなりません。
- 各科目の合格率: 例年 15%〜20% 程度
- 5科目一括合格者(官報合格者): その年の受験者のうち、5科目すべてに合格する人は 2%〜3% 程度
「1科目なら15%か」と甘く見てはいけません。
これは、その科目に専念して準備してきた受験生(多くは専門学校で学んでいる)の中での上位15%です。簿記1級合格レベルの受験生もゴロゴロいる中で、この試験を5回突破しなければなりません。
2. 必要な勉強時間:合計 2,500〜4,500時間
5科目合格までに必要な総勉強時間は、公認会計士とほぼ同等か、それ以上と言われることもあります。
- 合計勉強時間(目安): 2,500時間 〜 4,500時間
- 一般的な合格までの年数: 5年 〜 10年
公認会計士が「2〜3年で3,500時間」を叩き込むのに対し、税理士は「8年かけて3,000時間」といったように、長期間に分散するのが一般的です。
【参考:科目ごとの勉強時間目安】
- 簿記論(必須): 約450〜500時間
- 財務諸表論(必須): 約450〜500時間
- 法人税法 or 所得税法(選択必須): 各 約500〜600時間
- 消費税法 or 相続税法(選択): 各 約250〜350時間
税理士試験が「難しい」3つの理由
1. 必須科目の「会計2科目」が既に超難関
税理士試験は、まず「会計科目」2つに合格する必要があります。
- 簿記論: 簿記1級の商業簿記・会計学をさらに深掘りした「純粋な計算試験」。簿記1級よりも膨大で複雑な計算が求められるとされます。
- 財務諸表論: 計算と「理論(会計基準の暗記・記述)」の試験。簿記1級ではあまり問われない、会計理論の本質的な理解と記述能力が求められます。
この2科目だけでも、簿記1級合格者が専念して1〜2年かかるレベルです。
2. 「税法3科目」の圧倒的ボリューム
会計2科目を突破した後、本丸である「税法科目」3つが待っています。
- 選択必須(法人税法 or 所得税法): どちらも「税法のラスボス」と呼ばれる科目。法律条文の膨大な暗記と、複雑な計算が求められます。
- 選択(消費税法、相続税法など): 相続税法などは、富裕層のコンサルティングに必須であり、難易度・人気ともに高い科目です。
税法科目の最大の敵は「膨大な暗記量」と「毎年の法改正」です。一度覚えたと思っても、翌年の試験では法律が変わっているため、常に知識をアップデートし続けなければなりません。
3. 「大学院免除」という裏ルートの存在
税理士試験の難易度を語る上で欠かせないのが、この「大学院ルート」です。
- 会計学や税法に関する修士号を取得することで、会計2科目のうち1科目や、税法3科目のうち2科目が「試験免除」になります。
多くの受験生が、会計2科目+税法1科目(例:法人税法)に自力で合格した後、大学院に2年間通って修士号を取得し、残りの税法2科目を免除してもらう戦略を取ります。
これは一見「楽な道」に見えますが、「2年間の学費(数百万)と時間」という別のコストが発生します。このルートが存在すること自体が、5科目を純粋に試験だけで突破すること(官報合格)がいかに困難かを物語っています。
難易度比較:税理士 vs 公認会計士
これは永遠のテーマですが、難易度の「質」が違います。
| 比較項目 | 公認会計士 (CPA) | 税理士 (Zeirishi) |
| 試験の型 | 短期決戦型(スプリント) | 長期戦型(マラソン) |
| 合格制度 | 一括合格制(期限あり) | 科目合格制(期限なし) |
| 難所 | 全科目を同時に仕上げる瞬発力 | 5〜10年続くモチベーション維持 |
| 範囲 | 監査論、企業法、会計学(広い) | 税法(極めて深い)、会計学 |
| 両立 | 働きながらは極めて困難 | 働きながら合格する人が大半 |
結論:
- 試験制度の過酷さ(短期的な激しさ)で言えば、公認会計士に軍配が上がります。
- 長期的な精神力・持続力と、**1科目ずつの深さ(特に税法)**で言えば、税理士が勝るとも劣りません。
税理士試験は独学で合格可能か?
結論:極めて非推奨(ほぼ不可能)
簿記1級までとは異なり、税理士試験の独学合格は、公認会計士と同様に限りなく不可能に近いです。
- 理由1:毎年の「税制改正」これが最大の理由です。市販のテキストでは、毎年目まぐるしく変わる税法の改正に絶対に対応できません。
- 理由2:膨大な「暗記」の効率化「理論」と呼ばれる法律条文の暗記は、予備校(専門学校)が「ここを覚えろ」と指定する「理論マスター」と呼ばれる教材なしには不可能です。
- 理由3:モチベーションの維持平均5〜10年かかる試験を、たった一人で走り抜けるのは超人的な精神力が必要です。
合格者のほぼ全員が「資格の大原」や「TAC」といった専門学校の講座(通学または通信)を受講し、最新の教材とカリキュラム、そして同じ目標を持つ仲間の中で学習しています。
まとめ:人生をかけて目指す「税務の頂」
税理士試験の難易度について、詳細に解説しました。
- 合格に必要なのは**「5科目の積み上げ」**
- 1科目あたりの合格率は15%〜20%
- 合格までの平均年数は5年〜10年
- **「科目合格制」**により、働きながら目指せる
- 独学は不可能で、専門学校の利用が前提
公認会計士が「短距離走のエリート」なら、税理士は「長距離マラソンの鉄人」です。
何年もかけてコツコツと努力を積み上げられる人、そして「税」という非常に専門的で奥深い分野を極めたい人にとって、挑戦する価値のある最高の資格と言えるでしょう。

